強制送還・・・「薬物投与送還」と「簀巻き送還」

                    
入管問題調査会、2005年10月7日

抗精神病薬・睡眠薬などの投与の目的は?

入管施設の中で、処遇の難しい被収容者に対して抗精神病薬や睡眠薬、抗不安薬等の薬を被収容者を沈静化するために使用してたことがほぼ明らかになってきている。なかには1日30錠もの薬を飲まされた人もいる。

2003年8月から2005年9月にかけて収容施設に収容されている人のおかれている健康状態、および被収容者の医療体制や施設内の処遇についての詳細な調査を行った。この調査でも送還に同意しない人が30錠近くの薬を投与されたうえ送還された事例は送還33例中2例あった。入管側はこうした薬の使用を一貫して否定しているが、本人の証言や処方箋などからほぼ間違いないと思われる。

麻酔を注射されたうえの送還(1999年)

「薬物投与送還」が初めて表面化したのは1999年のことで、東日本入管センターに収容されていた難民申請を認められなかったエチオピア人男性が1999年11月8日、麻酔をかけられた状態で飛行機に乗せられたという事件が発生している。かれは行政処分取消訴訟の準備をしている最中の送還であった。本人の証言では「担当官は“ゴー・バック”と繰り返したという。押し問答が続き、もみ合いになった。手足を拘束具で縛られ、2回、太ももに何か注射されて意識が遠のいた。」(「入管収容施設」入管問題調査会編、現代人文社)

送還直前に無理矢理薬を飲まされた(2004年)

表:2004年6月に強制送還された男性が送還日当日に飲まされた薬(東日本センター)

 
ヒルナミン(5mg) 抗精神病薬 2錠 2錠 2錠  
ソラナックス(0.4mg) 抗不安薬 2錠 2錠 2錠  
ロキソニン 鎮痛薬 1錠 1錠 1錠  
エバステル 抗アレルギー薬、(副作用として催眠作用)     2錠  
ネオマレルミン 抗ヒスタミン薬、(副作用として催眠作用)     1錠  
プルセニド 便秘薬       3錠
マイスリー(5mg) 睡眠薬       3錠
パキシシル(20mg) 抗うつ薬       1錠
レンドルミン(0.25mg) 睡眠薬       1錠
ロヒプノール(2mg) 睡眠薬       1錠

2004年に送還された人(表の事例)の証言では「大勢の入管職員に取り囲まれ、『これはおまえの薬だ』といわれて薬を渡され、その薬を飲まされた。それを飲んだら頭がもうろうとして寝てしまった。施設を出て飛行機の中でも薬を継続して飲まされ意識を失っていた。」と語っている。証言者はこれらの薬は初めて飲まされるもので常用していた薬ではなく、送還された日に初めて渡された薬で、また職員から薬についての説明はなされなかったという。山村医師は「大量投与で意識をなくさせたことは、場合によっては死に至る可能性もある。投薬が医師の処置とすれば、それは治療目的とは言えず、医療倫理に反する行為である。」(山村淳平『傷つけられた在日外国人−入管収容所での暴行、投薬による強制送還、そして結核患者の長期収容』メディカル朝日.2004年12月号)としている。

ベトナム人女性の「簀巻き送還」事件(2004年)

西日本入国管理センターに収容されていたベトナム人女性(29)が、入国警備官らによって抵抗できないよう、毛布で簀巻き状態にされ、体の自由を奪われた状態で7日(2004年11月7日)午後、ベトナムに送還された。女性は「毛布でぐるぐる巻きにされ、口にテープを貼られた。手足が痛い」と語っている。女性の話によると施設内で送還を告げられて抵抗をする女性に対し、職員らは手錠をかけ、下半身を毛布と縄で縛って担ぎ出し、関西空港に車で運んだ。女性が機内で「帰りたくない」と叫ぶと、職員は腹部を膝で押さえつけ、布を巻いた棒を噛ませたうえ、ひもと粘着テープで口をふさいだ。30分後、呼吸が苦しくなった女性が「叫ばない」と伝えると、ようやく猿ぐつわが外されたが、手錠や縄は離陸約20分後まで解かれなかった。手足が腫れ、ベトナムで1日入院し、いまは通院中という。同省は「女性が絶叫したので数分程度、応急的な器具で制止した。正当な業務行為だ」としているが、支援団体は「けがをしており許されない」と反発。(朝日新聞2004年11月8日および11月11日より要約し引用)

「薬物投与送還」や「簀巻き送還」が行われる背景

これらのなりふりかまわぬ送還が行われる背景には、「無期限・長期収容」がある。入管施設への収容は収容令書をもって行われる。収容令書による収容は30日間、延長しても合計で最大60日間が上限である。しかしいったん退去強制令書が発行されると、退去強制令による収容には上限の定めがない。これが無期限・長期収容を可能にしている法的根拠である。退去強制手続きに乗せられた被収容者は、「送還に同意して帰国する」か「無期限・長期収容」に甘んじるかの選択が迫られることになる。「無期限・長期収容」はさまざまな人権侵害を招いている。

日本の入管システムは、「無期限・長期収容」におくことによって、当該被収容者にどんな事情があろうが、送還に同意せざるを得ないような状況に追いやり、送還に強制力を持たせる仕組みをとっている。しかし、このような状況におかれている人たちは例外なく何らかの事情(帰国できない事情)を抱えている。送還先で迫害を受けるおそれがあったり、日本に配偶者や子どもがいて、日本での生活を望んでいる等の場合である。ここに最後的な解決の手段として、「薬物投与送還」や「簀巻き送還」が生まれてくる背景がある。

「薬物投与送還」や「簀巻き送還」は問題の解決ではない

無期限・長期収容の解決は、「薬物投与送還」や「簀巻き送還」であってはならない。このような送還方法をとらざるを得ない現実に入管が追い込まれているということは、むしろシステムの破綻を意味している。

妻や子どもと引き裂かれ、強制送還されてしまったあるイラン人男性は私たちに次のように語った。彼の問いかけは、いまの日本の入管システムの非人間性を鋭く告発していると言えよう。

「人間はどこに行っても、どこの国に行っても人間です。この人に、この家に、この女に、奥さんに、この旦那さんが必要かどうか、この子にお父さんが必要かどうか、どうして入管が勝手に決められるのか。人の家族を、ビザのためにバラバラにするのか。私は自分で働いて、それで子どもにご飯を食べさせたい。なぜ家族が離ればなれになったのか、子どもにいつになったら言えるのだろう。」