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マナーなんて簡単だ!

寿司のマナー編

 一昔前に比べて、寿司屋も随分オープンになったとはいえ、レストランに比べれば、まだまだ閉鎖的な空気の残る特別の世界だ。誰だって、初めての寿司屋に行くには勇気がいる。一見では居心地が悪いだろうか、支払いは、不慣れには見えまいか・・・。と心配すればきりがない。板前さんと対峙するカウンター独特の世界は、男の度量が最も試されているような気にもなる。そこで、たとえ初めてでも自信を持ってふるまえるよう、粋を知り尽くした、銀座の名門、「銀座・寿司幸本店」4代目・杉山衛氏に、寿司屋での在り方を訊いた。



まずは予約。事前に予算を確認、2割多めを心得る

 ふらりと訪れて、ちょいとつまむ・・・、そんな姿が粋なのは、あくまで常連の話。
「初めてであれば、予約をして訪れるのが礼儀だし、安心ですよ」
 電話では知りたいことはなんでも聞き、必要な情報があれば伝えること。
「そのとき、受け答えを面倒がる店はよい店ではないですよ。態度が悪いと感じたら、店をかえるのもいいでしょう」
 確かめておくことは、おまかせにするか、お好みか。禁煙席の有無など。同時に接待とか、記念日といったこちらの状況も伝えておきたい。
 予算は、おまかせであれば、電話で聞いた金額から大きくずれることはまずない。
「お好みで頼む場合も、トロ、鮑などを連発しなければ、2割増しくらいでおさまるはず」。
食べている間中、会計のことが気になるようで粋に程遠い。
「男、40歳にもなれば、少々のことは金で解決できると腹をくくることですよ(笑)」。 
 なんともありがたい励ましの声ではないか。



寿司の順番に掟なし。食べたい順でOK

 カウンターに座って、何から頼むのが正解か。寿司経験が少ないほど気になるものだ。
「何から食べてもいいのですが、お好みの場合は白身から始めて、光り物や貝類、そしてマグロやウニ、最後に穴子、煮ハマグリなど甘口のもので締める方が多いですね」
 その順番の理由は、味の淡いネタから始めたほうが、全体を通して味がわかりやすいから。一昔前にトロから頼むのは無粋、などと勿体付けて言われたのはそういう理由からだ。
「僕は、おまかせでと頼まれたら、マグロから始めて、ガツンとインパクトを与えます」。
 また、自身が食べに行くときは、巻物を1本頼んで小腹の足しにしてから、つまみに戻ることもあるという。かように、寿司を頼む順番にいまや掟はない。もし自己流の順番で美味しく食べられているのか疑問なら、一度、オーソドックスに白身から始めてみればいい。



板前さんとの呼吸が寿司屋の楽しみを左右する

 カウンター越しに注文する寿司は、店側との呼吸がある。意外に悩むのが板前さんの呼びかけ方。なんと呼んだら失礼にあたらないのか。
「若い人ならば、“板さん”、もしくは胸についた名札の名前で。60歳前後と思しき人なら“大将”、“親父さん”でもいいと思います」
 また、忙しくしているときは、注文を控える、気遣いを。
「手が空く頃合で、焙って握るなど凝ったものを頼んでくるお客さんは慣れているなあと思います」
 客は横並びにならんでいる。場の空気を読むことができる人がワンランク上の粋な人となれるのだ。



カウンターはくどきの場と心得よ


 板さんが頑固で怖いのは客層の若い店だけだ。高級店になれば、そこは社交場の趣が強くなる。
「寿司屋のカウンターは恰好のくどきの場ですよ」。
 口説く相手は連れの女性であり、得意先であり、引き抜きたい若手である。カウンターには口説きに打ってつけの緊張と緩和がある。
「カウンターのマナーとして政治と宗教と人種の話はダメです。それ以外なら大丈夫。話の流れで、ホスト役の人に力を貸しますよ」
 手練手管な板前さんが加わり、場を盛り上げてくれる。寿司のカウンターはホストにとって実は優しい場所なのである。



滞在時間は1時間半がスマート

 寿司は江戸っ子が愛したいなせな食べ物。元来、気が短い江戸っ子、さっと食べて、さっと席を立つのが粋。店の混み具合にもよるが、いつまでもツマミをつついて居座るのは格好悪い。
「酒を飲まないなら1時間から1時間半が目安。酒を飲む場合なら1時間半から2時間ぐらいが適当でしょうか」
 話が盛り上がっても、2時間以内で切り上げる。長っ尻は禁物だ。





美しく見える寿司の食べ方


箸を使うか手で食べるか
場の雰囲気でどちらもOK

箸、手、どちらも可だが、杉山さん自身は仕事以外で手に魚の臭いをつけたくないからと箸派。ねたを手前に90度倒し、箸でねたとしゃりをはさむように持つと崩れない。

そのままの角度で、ねたとしゃり両方に少しだけ醤油をつける。しゃりの部分を底にして持ち、醤油につけるのだけはNG。味が濃いのはもちろん、崩れやすくなる。

手の場合も同じ。90度横に倒してつかみ、側面とねたに醤油少々をつける。店によっては手で味わうよう奨めるところもあり、流儀に従うのが、雰囲気を壊さず楽しめる。




季節の肴を覚えて粋な注文を


 せっかく寿司屋に来たのなら、つまみも堪能したい。が、ボリュームがありすぎると握りが楽しめないので、まずは、時期のお薦めを聞いて、刺身を2〜3種切ってもらうのがいいだろう。写真はきすの昆布締め。

 刺身が続いたら、「なにか焙ってもらえますか?」などと聞いてみるのもいい。写真はシマアジの腹身を焼いたもの。こうしたつまみこそ、すし屋の醍醐味。が、刺身のみの店もあるので、周りの状況を見て頼むこと。

 白身の中でも王道の鯛の握り。通年楽しめるが、冬へ向けてまた美味しくなる。冬場は平目、夏場はカレイやスズキが旬。白身は見ただけではわかりにくい。。「これは何ですか?」と聞いても恥ずかしくない。

 いわずと知れた高級魚、鮪の中トロ。好きなだけ食べれば、当然会計に響く。ちなみに、銀座Sで、一番高いねたは「はがし」といわれる大トロの蛇腹の筋をはがした部位。いつか食べられる日を夢見て。

 一般的には巻物で締めくくる人が多い。まだもう少しと思えば、ねぎとろや鉄火でもいいし、さっぱり締めたければ梅しそやおしんこ。
写真は穴きゅう。コクと清涼感が同時に味わえて、締めの巻きものに最適だ。