「放浪水泳生活・その1」  片根伊六




これは架空の話しだが、春のはじめから夏の終わりにかけて半年ばかりのあいだ、僕は放浪水泳生活と呼べそうな時を過ごしていた。
全国展開しているスポーツジムやフィットネスクラブや水泳スクールの会員カードを5枚ほどを財布の中に入れて、あとは水着・キャップ・ゴーグル・曇どめ・バスタオルなどが入ったABCマートのビニール袋、それに郵政省・ニコス・ビザが一体になったトリプルカード、主な持ち物としてはそれくらいだった。
プールからプールへと渡り歩く日々が続いた。
公営プールを使うこともあったが、たいていの場合は5枚の会員カードの内のどれかを使うことが出来た。
大きな都市には、支店のある確率が高いので、多い日は3つのプールを梯子して泳いだこともあった。
眠る場所は他のヒッピーたちと同様に駅や公園や建物の軒下などだったが、朝のオープンと同時に一泳ぎするので、彼らとは全然事情が異なっていた。野宿の一番の問題は、なんといっても、風呂に入れないということなのだから。
プールにはもちろんシャワーが付いているから、僕ら放浪水泳生活者はほかのヒッピーたちのように不潔になる心配はなかった。
塩素水の中に何時間か浸かっているわけだから、むしろ普通の人よりも清潔だったくらいだ。
それに、大きな施設だと、ジャグジー付きのワールプールやサウナやエステやマッサージなどのサービスが無料で受けられるので、心身ともにスッキリすることが出来た。




1998年作







片根伊六



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